新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、マスクやトイレットペーパーなどの「買い占め」が社会問題となりました。
買い占め行動には個人差があり、人によって買いだめの程度は異なります。それでは、どのような性格の人が買い占めをしやすいのでしょうか。
この疑問に答えてくれるのが、論文「日本におけるCOVID-19パンデミック下での買い占め行動とパーソナリティ特性の関連」です。
吉野真也氏らの研究チームは、2020年5月の緊急事態宣言下で、東京在住の530人を対象にオンライン調査を実施しました。
調査では、性格特性と買い占め行動の関係を詳しく検討しています。性格特性としては、外向性、協調性、誠実性、神経症傾向、開放性の5つと、性格的な強欲さを取り上げました。
一方、買い占め行動は、マスクやトイレットペーパーなど8種類の必需品や感染対策商品の買いだめ状況を尋ねることで評価しました。
さて、買い占めをするのはどんな性格の人なのでしょうか。本論文の知見をもとに、買い占め行動と性格の関係を探ってみましょう。
今回も、性格研究者で悪者図鑑著者のトキワ(@etokiwa999)が解説していきます。
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目次
買い占めする人の性格的特徴とは?
外向的な人は買い占めしやすい
外向的な人は、買い占め行動と正の相関があります。
つまり、外向性が高いほど、買いだめをする傾向にあるのです。
一方で、外向的な人は楽観的でもあります。
楽観主義は外向性の特徴の1つで、将来に対してポジティブな期待を持ちます。
そのため、製品が手に入りにくくなることをあまり心配しないのかもしれません。
協調性の高い人も状況によっては買い占める
協調性の高い人は、他の性格特性を調整すると、買い占めと関連が見られました。
この特性には、他者への思いやりと、他者への順応の2つの側面があります。
思いやりの強い人は、買いだめを控えめにするでしょう。
一方、順応性の高い人は、周囲の行動に合わせて買い占めをするかもしれません。
状況に応じて、協調性の高さが買い占めを促進したり、抑制したりすると考えられます。
協調性の高い人の買い占め行動は、状況要因に左右されやすいのかもしれません。
周囲の人が買いだめをしていれば、同調して買い占めるでしょう。一方、買い占めが社会的に望ましくないとされれば、控えめな購買をすると予想されます。
誠実性と買い占めの関係は明確でない
誠実性と買い占めの関係については、本研究では明確な結果が得られませんでした。
先行研究では、誠実性の高さが買い占めを予測するという報告もあります。
- 計画性が高いため、先を見越して買いだめをする
- 自制心が強いため、衝動的な買い占めを控える
このように、誠実性の異なる側面が、買い占めに正反対の影響を与える可能性があります。
そのため、全体としては、はっきりとした関連が見出しにくいのかもしれません。
誠実性と買い占めの関係は一義的ではありません。誠実性のどの側面に着目するかで、買い占めへの影響は異なってくると推測されます。
計画性と自制心という、相反する特性の効果が相殺され、全体としては関連が不明確になるのでしょう。
神経質な人は不安から買い占める傾向あり
神経質な人は、買い占め行動と正の相関が見られました。
彼ら彼女らは、ストレスや脅威に敏感で、不安になりやすい性格です。
感染症の脅威にさらされると、必需品が不足する事態を心配するでしょう。
そして、その不安から、買いだめをする傾向があると考えられます。
神経質な人の買い占めは、感染脆弱性の認知よりも、製品不足への不安が原因と推測されます。
好奇心旺盛な人は新しいことを試したがるため買い占めしやすい
開放性(好奇心の強さ)も、買い占めと正の相関がありました。
開放性の高い人は、新しいアイデアや経験を好みます。
また、想像力が豊かで、先を予測して行動する傾向もあります。
買い占めは、感染症対策の新しい方法の1つと捉えられるかもしれません。
未知の事態に備えて、買いだめをするのでしょう。
まとめると、開放性の高い人は、好奇心から新しい対処法を試してみたり、想像力を働かせて先の事態に備えたりするため、買い占めをしやすいと言えます。
柔軟な思考が、かえって買いだめを促進してしまうのかもしれません。
強欲な性格の人は買い占めしがち
自分の欲求を優先するため必要以上に買い占め
性格的な強欲さは、買い占め行動を最も強く予測していました。
強欲な人は、自分の利益を最優先し、他者への配慮に欠けます。
感染症の脅威にさらされると、必要以上に買いだめをしてしまうのでしょう。
「必要な人が買えなくなるかもしれない」という思いよりも、「欲しいものを十分に確保したい」という気持ちが勝ってしまうのです。
強欲さは外向性や神経症傾向と関連
強欲さは、外向性や神経症傾向と正の相関があります。
外向的な人は、刺激を求める傾向が強く、物質的な満足も追求しやすいのかもしれません。
神経質な人は、将来への不安から、必要以上に物を溜め込んでしまうのでしょう。
このように、強欲さは他の性格特性とも関わりがあります。
ただし、強欲さは、外向性や神経症傾向とは独立した、固有の影響力も持っていると考えられます。
つまり、強欲さは買い占め行動の主要な原因の1つと言えるでしょう。
自分の欲求を満たすことを最優先し、必要以上の量を買いだめしてしまうのです。
また、強欲さは外向性や神経症傾向とも関連しますが、それらとは別の独自の影響力も持っていると推測されます。
買い占め行動に影響する他の要因
感染脆弱性の認知は買い占めと関連なし
本研究では、感染脆弱性の認知と買い占め行動に関連は見られませんでした。
感染脆弱性の認知とは、感染症にかかりやすさをどの程度感じているかです。
これは神経症傾向と関連がありますが、買い占めとは直結しないようです。
つまり、買い占めは感染への不安よりも、必需品不足への懸念から生じると推測されます。
同居人がいると買い占めする傾向
一人暮らしの人よりも、同居人がいる人の方が買い占めしやすいことが分かりました。
同居人の分まで買いだめをする必要があるからでしょう。
特に、家族と暮らしている人は、大量に買いだめをすると考えられます。
また、周囲の人の買い占めを見聞きすることで、同調して買いだめをするのかもしれません。
製品の入手しやすさも買い占めを促進
調査時点で、必需品や感染対策商品の入手しやすさも、買い占めに影響していました。
商品の入手がしやすいほど、買いだめをする傾向があったのです。
品薄状態では買い占めが難しくなりますが、商品が潤沢に供給されている状況では、買いだめがしやすくなると推測されます。
以上をまとめると、感染脆弱性の認知は買い占めと関連がなく、必需品不足への不安が買いだめを引き起こすと考えられます。
また、同居人の存在や、製品の入手しやすさも買い占めを促進する要因と言えるでしょう。
日本人を対象にした買い占め行動の研究
2020年5月の緊急事態宣言下で実施
本研究は、2020年5月に実施された、日本人の買い占め行動に関する調査です。
当時、日本では新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、緊急事態宣言が発令されていました。
外出自粛要請が出され、日用品の品薄も相次ぎました。
このような状況下で、人々の買い占め行動がどのように現れるのかを検討したのです。
東京在住の530人にオンライン調査
調査対象は、東京在住の20歳から59歳の男女530人でした。
- 男女比は、男性256人、女性274人とほぼ同数
- 年齢は、30代、40代、50代がそれぞれ3分の1ずつ
- 平均年齢は44.26歳、標準偏差は8.43歳
調査はインターネットを通じて行われ、回答者は調査会社の登録モニターから抽出されました。
買い占め状況を質問:必需品や感染対策商品8品目
調査では、必需品や感染対策商品の買いだめ状況を尋ねました。
対象となった品目は以下の8つです。
- マスク
- トイレットペーパー
- ティッシュペーパー
- 除菌用アルコール
- ハンドソープ
- ウェットティッシュ
- 米
- インスタント食品
それぞれの商品について、例年2月から4月と比べて、どの程度の量を購入したかを7段階で評価してもらいました。
つまり、この研究は、2020年5月の緊急事態宣言下の東京という、特殊な状況における買い占め行動を調べたものです。
必需品や感染対策商品の8品目について、530人の男女がどれだけ買いだめをしたかをインターネット調査で詳しく検討しました。
買い占め行動と性格の関係
外向性、神経症傾向、開放性が買い占めと正の相関
相関分析の結果、外向性、神経症傾向、開放性が買い占め行動と正の相関を示しました。
相関係数は以下の通りです。
- 外向性:0.16
- 神経症傾向:0.14
- 開放性:0.21
いずれも統計的に有意な値でした(p < .001)。
相関の強さはそれほど大きくありませんが、一定の関連があると言えるでしょう。
協調性も他の性格特性を調整すると関連あり
協調性は、買い占めと直接の相関はありませんでした。
しかし、重回帰分析で他の性格特性の影響を調整すると、買い占めとの関連が見られました。
標準化偏回帰係数は0.12で、95%信頼区間は0.03から0.21でした。
つまり、他の性格特性が同じなら、協調性が高いほど買い占めしやすいということです。
誠実性は買い占めとの関連が不明確
誠実性と買い占めの関係は、本研究では明らかになりませんでした。
先行研究でも、一貫した結果が得られていません。
誠実性のプラスの側面(計画性)とマイナスの側面(衝動制御)が、買い占めに相反する影響を与えるためと考えられます。
性格的な強欲さが最も強く買い占めを予測
性格的な強欲さは、買い占め行動を最も強く予測していました。
重回帰分析の標準化偏回帰係数は0.16で、95%信頼区間は0.07から0.25でした。
他の性格特性よりも係数が大きく、買い占めへの影響力の強さがうかがえます。
強欲な人は、自分の利益を優先し、必要以上に買いだめをしてしまうと考えられます。
まとめると、外向性、神経症傾向、開放性、協調性が買い占めと関連しており、中でも性格的な強欲さの影響が大きいことが明らかになりました。一方、誠実性と買い占めの関係は不明確でした。買い占め行動には、複数の性格特性が関わっていると言えるでしょう。
本研究の意義と課題
性格が危機的状況下の行動に影響
本研究は、性格が危機的な状況下での行動に影響を及ぼすことを示しました。
これまで、性格と買い占め行動の関係を調べた研究は少なく、特に日本人を対象とした検討は見当たりませんでした。
本研究によって、日本でも欧米と同様に、性格が買いだめ行動と関連することが確認されたと言えます。
買い占める人の性格的特徴が明らかに
本研究では、買い占めをする人の性格的な特徴が明らかになりました。
買い占めは、公平性を損ない、必要な人が必需品を入手できなくなるなど、社会的に望ましくない行動です。
買い占めをしやすい人の性格を知ることで、過度の買いだめを予防する手がかりが得られるかもしれません。
日本人サンプルでの検討は重要
性格と行動の関係を、様々な文化や集団で検証することが大切です。
日本人は比較的集団主義的だと言われますが、それでも買い占め行動は見られました。
感染症流行下の行動には、個人差が関わっている可能性があります。
日本人サンプルでの知見の蓄積が求められます。
性格以外の要因の検討も必要
性格以外にも、買い占め行動に影響する要因があります。
本研究では、以下のような要因が関連していることが分かりました。
- 同居人の有無
- 製品の入手しやすさ
- 感染脆弱性の認知(ただし、買い占めとの直接の関連はなし)
このように、個人の置かれた状況や環境も、買いだめ行動に影響すると考えられます。
性格と状況要因の相互作用なども検討する必要があるでしょう。
他の文化圏での追試が求められる
本研究は、日本の特定の地域・時期に限定されたデータに基づいています。
他の文化圏でも同様の結果が得られるかは分かりません。
国や地域によって、感染症流行の状況や対策、物資の供給体制などが異なります。
そうした違いが、買い占め行動や性格の影響にどう反映されるのかを確かめる必要があります。
本研究の知見を一般化するには、様々な文化圏でのデータ収集が求められるでしょう。
まとめると、本研究は性格が危機下の買い占め行動に及ぼす影響を明らかにした点で意義があります。
一方で、性格以外の要因の検討や、他の文化圏での追試などの課題も残されています。
本研究をきっかけとして、買い占め行動の心理的メカニズムの更なる解明が進むことが期待されます。
最後に
本研究は、新型コロナウイルス感染症の流行という危機的な状況下で、人々の買い占め行動とパーソナリティの関係を調べたものです。
外向的で神経質、好奇心旺盛な人ほど、買いだめをしやすいことが分かりました。また、強欲な性格の人は特に買い占めをする傾向が強いようです。
一方で、誠実性と買い占めの関係ははっきりしませんでした。同居人の有無や製品の入手のしやすさなど、性格以外の要因も買いだめ行動に影響していました。
この研究は、日本の特定の地域と時期のデータだけに基づいているため、結果がどこまで一般化できるかは分かりません。
今後、他の国や地域でも同じような調査をして、違いを比べてみる必要があります。
※この記事は以下の本に掲載された論文を参考に執筆しています。
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ライター 兼 編集長:トキワエイスケ @etokiwa999
株式会社SUNBLAZE代表。子どもの頃、貧困・虐待家庭やいじめ、不登校、中退など社会問題当事者だったため、社会問題を10年間研究し自由国民社より「悪者図鑑」出版。その後も社会問題や悪者が生まれる決定要因(仕事・教育・健康・性格・遺伝・地域など)を在野で研究しており、社会問題の発生予測を目指している。凸凸凸凹(WAIS-Ⅳ)。